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Black Plague Precisionの掲載記事:森田真理のヨーロッパFクラス選手権への個人・団体戦参加について

Posted 10/29/2025

 

アメリカのガンサイトBlack Plague Precision に、私(森田真理)がヨーロッパクラスFクラス選手権に個人戦と団体戦に参加した際の記事を取り上げて頂きましたので、機械和訳版を共有させて頂ければと思います。

 

【ヨーロッパFクラス選手権・番外編】

― マリ・モリタが「ブースの裏」から「射線の裏」へ立つまで ―

イギリスを3週間旅していた。すでにリムファイア世界選手権の撮影を終え(その記事はこちらにある)、旅の締めくくりはヨーロッパFクラス選手権での写真と映像撮影だった。
もちろん、私はワクワクしていた。Fクラス・オープンは自分の専門分野だからだ。
これまでサウスウエスト・ナショナルズで米国代表チームと時間を過ごし、何人もの競技仲間とも親しくなっていたので、この大会で最高峰の射手たちの戦いを見届けるのは最高の締めくくりになると思っていた。

だが、この記事は大会そのものの話ではない。
本編ではなく――射場に来て1時間も経たないうちに偶然出会った、ひとつの“サイドクエスト”の物語だ。


■「昨日マリがチーム戦に出て、すごいスコアを出したらしいよ」

Fクラス界隈にいれば、おそらくマリ・モリタの名前を聞いたことがあるだろう。
彼女はFクラス競技者ではないが、この業界のあらゆる場所に顔を出し、銃を手にしても侮れない腕前を持っている。

そんな彼女がチーム戦に出場して大活躍した―その話を聞いたとき、私は思わず耳を疑った。

この記事は、彼女と、彼女にライフルを託したFクラス世界チャンピオン、ゲイリー・コステロの証言をもとに、その出来事をたどるものだ。


■ 法律から「チャンス」を生み出す道へ

マリは憲法法学の学位を持ち、人々の生活をより良くしたいという思いで法を学んだ。
しかし卒業後、真の変化は法律ではなく「機会」を与えることから生まれると気づいた。
そこで彼女はビジネス開発や教育の分野へと進み、人々のキャリア形成やスキル育成を支援するようになった。

その考え方はやがて射撃業界へとつながっていく。
彼女がDEON Optical Design(マーチスコープのメーカー)に加わったとき、目指したのは射手とエンジニアの橋渡しだった。
射手の体験を深く理解し、現場からのリアルなフィードバックを開発側に伝える―その姿勢が、彼女を世界中の射場で見かけるおなじみの存在にした。

だが、Fクラスの射線に立つずっと前から、彼女は「精密射撃」の土台を築いていた。


■ ISSFの鍛錬が生んだ「静の精度」

長距離射撃に出会う前、マリはISSF(国際射撃連盟)ルールのエアライフルおよびビッグボアライフル競技で訓練を受けていた。
ISSFの競技は、完全なコントロールと精度の世界だ。
風読みもスポッターも存在しない。あるのは一人の射手と一挺の銃だけ。
一つひとつの動作、呼吸、心拍まで、すべてを意識的にコントロールする。

彼女はこの環境で、「戦う相手は外の条件ではなく、自分自身」だと学んだ。
落ち着き、再現性、精密さ――それがどんな銃でも通用する普遍的なスキルであることを悟った。
この経験こそが、後に彼女を救うことになる。


■ そして2025年、ビズレーへ

マリはすでに何年もマーチの代表として世界中の射撃イベントを回っていた。
ゲイリー・コステロ(Fクラス世界チャンピオンであり、March Scopes Europeの代表)からは何度も「ヨーロッパ選手権に来ないか」と誘われていたが、いつも丁寧に断っていた。
しかしついに、今回は参加を決意する。

目的は単純だった。
「選手のサポートをして、ブースを運営して、競技を見学する」。
撃つつもりはまったくなかった。

だが、ビズレーのナショナル・シューティング・センターに到着すると、状況は変わる。
ゲイリーが一挺の銃を手渡したのだ。

それはスピーディ製作の7 RSAUM。
7mm口径・5条ベンチマークバレル(ツイスト1:8.5)を搭載し、184grのバーガー・ハイブリッド弾を秒速2900フィートで撃ち出す。
ベースは改造BRMXDアクション――後に「ボーデン・ブラックナイト」として完成する設計の試作モデルだった。
A/S Rifles製のストックにZレール、スコープはMarch Majesta 8-80×56。
ゲイリーが長年愛用してきた銃であり、マリの手に渡っても変わらぬ性能を発揮した。


■ 初めてのFオープンで世界24位

マリにとってFクラス・オープンを撃つのはこれが初めて。
上位に入るなどとは夢にも思っていなかった。

だが結果は驚くべきものだった。
152人のトップシューターが集まる中、彼女は総合24位という成績を収めたのだ。

24位(F-Open部門・日本代表)
Tues M1 – 99.08 | Tues M2 – 72.05 | Agg – 171.13
Wed M1 – 93.10 | Wed M2 – 63.03 | Agg – 156.13
Thurs M1 – 91.04 | 総計 – 418.30

この大会は2026年の世界選手権を見据えた予選的な位置づけで、世界中の強豪が最高の銃・装弾・技術で挑んでいる。
その中での24位――しかもFクラス・オープン初挑戦という条件を考えれば、異例の快挙だった。


■ チャンピオンの銃、そして射手の力

確かに、彼女は世界チャンピオンの銃を使い、最高の装弾を与えられていた。
しかしそれだけでは説明がつかない。
ISSFで培った集中力、マーチ光学に関する深い技術理解、そして射撃理論への洞察――それらすべてが彼女の射撃に現れていた。
「正確さ」「忍耐」「理知的な判断」。
それが彼女をチーム・マーチの目に留まらせた。


■ チーム・マーチと共に、銀メダルへ

チーム・マーチは熟練の英国Fクラス射手たちで構成されており、ビズレーの風を知り尽くしている。
900ヤードと1000ヤードの2ステージ、4人1組、制限時間75分。
各射手は2発のサイター(試射)と15発の本射を撃ち、コーチが風の読みと射手の入れ替えを指揮する。
わずかなズレも許されない、チーム全員の呼吸を合わせる競技だ。

マリは当然、自分がチームで撃つことになるとは思っていなかった。
「ローテーションの仕組みも知らなかった」と彼女は後に笑う。
だが、指示を一つひとつ吸収し、ISSFで培った落ち着きで対応した。
10分間待つことになっても焦らない。呼吸を整え、タイミングが来たときだけ完璧に撃つ。
1000ヤードではリズムが完全に噛み合い、グルーピングも見事にまとまった。

結果発表の瞬間――チーム・マーチはオーストラリアに2点差の2位(銀メダル)
マリにとって初のFオープン、初のチーム戦での快挙だった。


■ 結果よりも得た理解

ゲイリーは言う。
「彼女をチームに選んだのは、個人戦のパフォーマンスが圧倒的に安定していたからだ。銃の調整も完璧で、プレッシャーにも動じなかった」。
英国式のコーチングでは、コーチが風を読みながら射撃中に照準を微調整する。
マリはそのスタイルにも即座に順応し、見事な連携を見せた。

マリにとってこの経験は単なるメダル以上の意味を持った。
それは、射手が装備に何を求めているかを「体験を通じて理解」する瞬間だった。
トラッキング精度、照準の安定性、信頼感――チームの多くがマジェスタを使っていた理由を、彼女は身をもって知った。

競技が終わると彼女は再びマーチのブースに戻り、射手たちと語り合った。
だがもう以前のように「説明する立場」ではない。
自らがその世界を生きた一人の射手として話していた。
Fオープン初挑戦で世界24位、チーム銀メダル。
それは、ただの数字以上の意味を持っていた。


■ 真の勝利とは何か

1位ではない。劇的な逆転もない。
だが、この物語が語るのは「スポーツの精神」そのものだ。

新参者が世界最高レベルの舞台に立ち、見事にやり遂げた。
世界チャンピオンが自分の銃と弾薬、そして信頼を託した。
チームが互いを信じ、冷静に戦い抜いた。
しかもあの悪天候――強風が吹き荒れ、テントが飛び、装備が壊れ、それでも誰も諦めなかった。

Fクラスは「射撃界のF1」と呼ばれる。
そこに突然新しいドライバーを乗せて、クラッシュもせず、上位で完走したら――それ自体が勝利だ。
マリ・モリタの挑戦は、まさにそれだった。

射撃を始めたばかりの人にこそ、この物語を知ってほしい。
このコミュニティは開かれていて、助け合い、成長を支えてくれる。
たとえ1位を取れなくても、真の喜びは「レースに参加すること」そのものにある。

だからこそ、この話を伝えたかった。
本当の勝利とは、ナンバーワンになることではなく――
勇気を出して立ち上がり、引き金を引き、自分より大きな何かの一部になることなのだ。

 

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